記憶混濁*甘い痛み*2
「……条野さん」
その言葉を聞いて、友梨は思わず息を飲んだ。
美しい和音の瞳から溢れる涙と、妻と子という響きに胸が痛んだ。
和音が、どれだけ家族を愛していたのかが切ない痛みとして心に触れた。
「……条野さん」
友梨は和音から目をそらし、何度か息を大きく吸って、瞼を動かし涙が溢れないように止めようとした。
彼の為に自分が涙を流すのは、何だか失礼な気がした。
けれど友梨の感情の波は押さえがきかず、ボロボロと大きな瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。
「……ゴメンナサイ。私が……こんな……苦しんで、おられるのね……今も」
和音の手を握り直して、友梨。
「……」
「時にイエスさまは……私達に試練をお与えになる。けれどどうか……イエスさまの存在を否定なさらないで?」
「……」
「今、現在、どんなに苦しくて明日が見えなくても、私達の心の中にイエスさまは存在し、条野さんの奥様とお子様も、貴方と共に存在し続けますから」