記憶混濁*甘い痛み*2

慈愛に満ちた、友梨の言葉。しかし和音は苦しそうに顔を歪めた。

「けれど……オレは……妻のようには神を愛せない穢れた人間で……心の中に存在する家族で人生を埋められる程強くもない」


「……!」


「正直……朝が来る度溜息をつく自分がいて。また今日も1日生きていかなければいけないのかと思うと、その長さに絶望する……」


和音は跪き、友梨に包まれた手に切な気に額をあてる。


「妻を……娘を……愛したい。愛してる。でもオレは欲深くて……彼女の温もりが欲しい……」


「条野、さん……」


「今こうして息をすることも辛いのに……それでもこれから先、ずっと独りで生きていかないと、いけないんですか?」


「……!」


「深山咲さん……もし、貴女がその答えを持っているなら、愚かなオレに神の声を聞かせてほしい……」


「……条野……さん」


和音の言葉に、声に、涙に、友梨の心が乱された。


どうしてこんなに彼に切なくなるのか、自分自身でも解らない。


でも……心がイタイ。


「……奥様とお子さんの為にも…どうか…生きる事に絶望するなんておっしゃらないで……?」


溢れる涙は、きっと和音の妻と子に対してのものではなく、和音に対してのものだ。


友梨は、和音を想って涙を流している。
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