記憶混濁*甘い痛み*2
友梨は自分も跪いて、重ねた手を引き寄せ、和音の指に切なそうにキスをした。
「……深山咲……さん?」
「…私も…弱くて愚かなオンナだわ…」
そう言うと友梨は手を離して立ち上がり、くるりときびすを返し、和音を置いて教会から走り去ってしまった。
残された和音は再び顔を歪ませ、両手を床について、顔を床に伏せるようにして涙をこらえた。
ここで声をあげて泣いたら、自分はもう、もたないような気がした。
こんなにも近くにいるのに、友梨までの距離は果てしなく遠い。
ひと月ほど前に強引に抱きしめた彼女の温もりも唇も、感触はリアルに覚えているのに。
毎日のように抱き合って、夜明けがくるまで求め合って、互いの肌の滑らかさも、骨のカタチさえも、怖い位正確に、覚えているのに。
触れたい。
触れられない。
苦しいのは。
身体よりも、心の方か?
「友梨……」
愛しい妻の名前で溢れ出した涙に、和音は声を殺し、気が振れそうになるのを何とか押さえ込んだ。