記憶混濁*甘い痛み*2
------一方
走り去ったかに見えた友梨は、教会の大きな木の扉を背にして、ズルズルとしゃがみこんでいた。
力が、抜けてしまっていた。
「私……何を……」
溢れる涙を指で拭いハンカチで顔を覆う。
「お兄様……助けて……」
止まらない涙にしゃくりあげながら、友梨は知らずに芳情院を呼んだ。
「お兄様……!」
友梨は、はやく芳情院に逢いたかった。
お兄様の腕の中こそが自分の居場所なのだ。
暖かくて、どこよりも安心出来る、最上の場所。
自分は、イエスさまと、お兄様に守ってもらう小さな存在でしかない。
でも、それなのに……
「…どうして、なの…?」
条野さんの事を……見つめ、守りたいと思ってしまった。
彼の綺麗な顔が切なく歪むのを、見ているのが辛かった。
彼は奥さまとお子さまを亡くした気の毒な方
お力になりたいとは思っても…彼を守りたいだなんて、そんなこと!
……私はなんて高飛車で傲慢な女なの……
条野さんは…そんな事を望んではいない。
彼はまだ悲しい位、亡くした奥様とお子さんの事を愛している。
だから……