記憶混濁*甘い痛み*2
その日、夜遅く
芳情院が病室を訪れると、友梨は既に休んでおり、瞳の脇には幾筋もの涙の跡があった。
「……悪かったね、泣き寝入りをさせてしまったか」
ウェットティッシュで綺麗に拭いてやりながら、芳情院は辛そうに微笑。
「何を感じているんだ?友梨……条野はオマエにとって、やはりどうしても心を掻き乱す存在かい?」
涙の跡が消えても、悲しそうに眉根を寄せた友梨の表情は泣いているかのようだ。
「深山咲から出さずに……中学も高校も白羽の女学院でいれば、オマエは僕だけの友梨でいてくれたのか?それとも……やはりどこかで出逢う運命だったのか?条野とは……」
『お兄様、友梨のロザリオ、お兄様は持ってらっしゃいますか?私…お兄様にお渡しした記憶がなくて…ゴメンナサイ。こんな大切なこと、思い出せないなんて』
聞かれた時、一瞬答えられなかった。
だってそのロザリオは、オマエが条野にくれてやってしまったじゃないか。
オレの手元に、ある訳がない。
ついつい慌てて日本に置いて来てしまったと答えたものの、さてどうしたものか……