記憶混濁*甘い痛み*2
今日、この日を迎える迄の1週間で、友梨の体重は3キロ程落ちていた。
着物の腰紐で締められて出来た生々しい両手首の痣は、シルクの肘までの手袋で隠れているものの、そのショックによりみるみる落ちた体重は、もともと華奢な彼女をさらに繊細な妖精のように見せていた。
その姿を可愛いと思いながらも、和音の胸がきしりと痛んだ。
愛情が。
報われないまま崩壊すると、きっと狂気が生まれるのだ。
和音は芳情院を見て、はじめてそれを知った。
彼は。
友梨を。
愛して、くれて、いた。
彼女が、子供の、頃から。
十も違う友梨の事を。
それはそれは大切に、慈しむように。
深山咲と言う、重い家系の闇の中から。
因襲と言う、古い歴史の霧の中から。
いつも友梨だけを見つめ、守り、愛してくれていた。
それは恋敵である自分から見ても、頭が下がる程の、深い深い優しさで。
だから。
まさか。
その、芳情院が。
友梨を、傷付けるような暴挙にでるなど。
考えつきも、しなかったのだ。
同じ女性を愛する、1人の、男として…………