~とある教師と優等生の恋物語~
そんなある晩、親父のアトリエに明かりがついていて、珍しく親父が制作しているのかと覗いた俺が見た光景は、


大きめのパレットナイフをキャンバスに何度も突き刺す太郎だった。


「太郎!やめろッ!バカヤロー!やめろって!」


なんとかナイフを取り上げ、手を血だらけにした太郎を押さえた。


「お前に!俺の気持ちが分かるか!?お前のせいでッ――」


ここで口をつぐんだのは、きっと太郎の優しさだ。


「…ごめん」


(俺のせいで……全部めちゃくちゃだ。家族も、将来も)


大きながっちりした憧れだった兄貴の瞳に涙を見た時



騒ぎを聞きつけてやってきた母さんが涙目で「次郎、分かってやって」と俺の腕を強く掴んだ時



『もう描かないで』と母さんが言ったように感じて。



その時から描けなくなっていった。
< 231 / 277 >

この作品をシェア

pagetop