~とある教師と優等生の恋物語~
家族から離れて過ごすようになると、昔の事はまるでなかったかのように、日々は表面上の穏やかさを取り戻していく。


たまに親父や母さん、時には太郎が「食事でも」と誘ってくれたけれど、


俺が居るだけで、穏やかな家庭に波風が立つのだと思うと、


なんだかんだ理由をつけて会うことはほとんどなくなった。


手を離れたボールのように、二度と元には戻らないと決めていた。


けれども

絵しか分からない俺が社会に出て立派に生きて行けるわけもなく。


美大の油絵科を卒業したところでこの不景気に就職先がゴロゴロあるわけでもなく。


日々をなんとなく生きている男を雇ってくれるのは何の保証もない仕事のみ。


太郎の努力が徐々に世間に認められていくのとは対照的に、俺の生活は空虚さを増していった。


――生きるって、面倒くせぇな――


そんな俺を、

バイトを転々としていた俺を、ある日突然訪ねて来て


“キミから絵を取り上げたら何か残りますか?”


拾ってくれたのは倉澤先生だった。


ほとんど筆を握らない俺をアトリエの講師にしてくれた。
< 233 / 277 >

この作品をシェア

pagetop