飼い犬に手を噛まれまして


「茅野!」



 カフェテラスでランチを楽しんでいた私たちに、聞き慣れた声がかけられた。



「郡司先輩! どうしたんですか?」


「今ちょうど会社に戻る途中だよ。……っと、邪魔したか?」


 先輩は、隣の席の朋菜に気がついて軽く会釈をした。

 思えば二人とも初対面だ。


「……待ってよ、紅巴。この素敵な方があの噂の郡司先輩?」


「そう、郡司先輩。


 先輩、私の学生時代からの友達の朋菜です」


 朋菜は、白い肌を真っ赤に染めて先輩をうっとりと見つめた。その気持ちすごくよくわかるんだけど、ちょっと複雑な気分だ。



「そっか、はじめまして。邪魔して悪かったな」


 立ち去ろとする郡司先輩の腕を、ガツっと朋菜が掴む。ワンコの時と一緒だ。


「邪魔なんて、そんなわけないじゃないですか! 郡司さんは、ランチまだですか? 良かったらご一緒しません?」


 朋菜は一オクターブ高い声で自分の隣の空いた席を指差した。


「え、でも」先輩は少し困ったように私を見た。


「もし、これから休憩で先輩が嫌じゃなければ、どうぞ」


 私が、自分の隣の席を指差す。朋菜と目があってバチバチと見えない火花が散った。



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