飼い犬に手を噛まれまして


───狭いビジネスホテルの部屋で時間も気にせず修学旅行の夜みたいに布団の中で、色んな話をした。私の実家の畑の話とか、朋菜と過ごした学生時代、昔付き合っていた彼氏と自然消滅してから先輩と付き合うまでずっとフリーだったこととか。


 ワンコは、ワンコで無自覚お坊ちゃまな発言を繰り返してはそのうち言い返すのすら疲れてきて、お金持ちの世界って別次元だなぁ……とぼんやりと聞いていたら、いつの間にか眠りについていた。


 カーテンから差し込む朝日。隣にはワンコが寝ていた。



 ホテルに併設されたカフェでモーニングを食べてからチェックアウトを済ませて、最後にもう一度だけイーストエージェンシーへ、ワンコ一人が向かった。私は、ビルの下の街路樹の脇で荷物係をしていたんだけど……結果は同じようだ。


 受付嬢たちは、ワンコの顔を見ただけで挨拶もなく首を横に振ったらしい。


「もし、深陽に伝えてくれるなら……もっと話をすればよかった、俺の気持ちはまだ変わってない、と言って欲しいって伝言してきました」

「ワンコ、すごいじゃん! いきなり成長しちゃったね。なんだかドキドキしちゃったよ」


「でしょう? これでも出てこないなんて……深陽、昔から強情だったしなぁ」




 高いビルを見上げて、二人して長いため息を吐き出す。
< 356 / 488 >

この作品をシェア

pagetop