飼い犬に手を噛まれまして

 ハンドバッグにいれていた携帯が着信を告げた。


「あ、ごめん。周渡さんからだ! …………もしもし」


 繁華街の雑音に混じって、大好きな人の声がする。


『紅巴、今日は家にいるんじゃなかったっけ?』


「あ……うん、そうなんだけど」

 ふと、顔をあげると見慣れた黒いレクサスが路肩でハザードランプをつけて点滅していた。


『取引先から直接帰ろうと思ってた。乗れよ、その隣のワンコも一緒に連れて来い』


「は、はいっ!」


 レクサスの後部座席にワンコを押し込んで、自分もその隣に座った。



「あのね、周渡さん……」

「やきもちは妬かないことに決めたから、紅巴とワンコのことでは、もう絶対」


 ワンコは可笑しそうに口元を隠して、くすくすと笑い声をあげた。

「ちょっと、笑わないでよ! だいたいワンコがSM倶楽部になんて行くからいけないんだから!」


「え……えすえむ?」


 運転中の先輩とバックミラー越しに視線が合った。


「違うの! SM倶楽部っていってもね、ワンコの大学時代の先輩のお店でね、コーヒー飲んでオヤツご馳走になって帰ってきただけなの!」





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