女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
―――――――――出た。
私はパッと笑顔を消した。
桑谷さんは制服に長い防水エプロン、長靴のままの格好でショーケースの前に立ち、じっとこちらを見て小さな声で言う。
「・・・電話、出てくれないから売り場に来た」
お客様がまばらにしか居ない洋菓子売り場に、魚屋さんは非常に目立つ。またまた周囲の視線を一斉に感じた。
私は無表情のままで答えた。
「・・・百貨店の社員さんが、メーカーの接客の妨害していいんですか」
桑谷さんが更に声を潜めて言う。
「こうでもしなきゃ、君が捕まらない」
「公私混同は恥ですよ」
「なんとでも言え。・・・とにかく、時間をとってくれないか」
私は首を傾けた。真剣な瞳で桑谷さんはそれを見詰める。
「嫌です」
彼は一瞬詰まって、何かを言いかけて口を開き、声が出ないで口を閉じた。それから一度空咳をして、改めて私を見詰める。
「・・ま――――・・・小川、さん」
私の視線に目を伏せて、呼び直した。