女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
「そうだった。君が守口を蹴っ飛ばしたのは驚いたな。見事な回し蹴りだった。反応も早くてナイフをさっさと拾ってたし、その後の構えも中々・・・」
人差し指で唇を撫でていた。彼が物を考えるときの癖だとは、もう判ってる。
「・・・それに、君はやたらと冷静だった、な」
彼が私を見下ろしたのを感じた。私は知らん顔でそのまま歩く。繋いでいる手をぶらぶらと振って、彼が追求した。
「あれはいきなりナイフを向けられた一般人の反応ではない、よな?」
「・・・そう?」
「ああ、普通の人はあんな動きは出来ない。まずはパニックに陥って、自分の首を絞める行動に出ることの方が多い」
問いかけるような視線を感じたので、しぶしぶ言った。
「実は」
ゆっくりと口を開く。
「空手をしてたんです。10年ほど」
彼は目を見開いて、まいったな、と呟いた。
「強かったのか?」
「帯は黒の手前で終わりましたけど、それとは別に護身術を学んでました」
「―――――――・・・せいぜい、怒らせないようにしよう」
「そうして下さい」
そうは言っても、あなたはプロじゃないの。いざとなったら私なんか簡単に押さえ込めるくせに、と思ったら、何かムカついた。
ムスッとした声で言う。
「私は怖いですよ。しかも、しつこい。一度受けた恨みは一生忘れないし、仕返しするまで諦めません」
それにそれに――――――と話を続ける私の手を引っ張って、彼が抱きしめた。