女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 茶紙に手を伸ばすとまたさっとどけられる。私はそれにイライラして舌打ちをする。

 斎はうちの店の茶紙をしっかりと持ったままで、低い声で言った。

「・・・お前、あることないこと言いふらしてるだろう」

 あっかんべーをしてやろうかと思った。だけど勿論そんなことはせず、ただじっとヤツを見返す。

「いい加減にしないと、マジで怒るぞ」

「私が言いふらしてんじゃないわよ。皆が聞きに来るのよ、素敵な我らの守口店長について」

 ふざけた口調で言いながら、にやりと笑ってみせた。

 やっぱり斎のところにも噂が流れていたのだ。普段優しく格好良いってイメージ作りを大事にしている斎は、さぞかし不愉快な思いをしているのだろう、と思うと、大声で笑いたい気分だ。

 いっそ笑ってやろうか。ゲラゲラと腹を抱えて。

「付き合ってたなんて言いやがって」

「付き合ってなかったっけ?」

 私の返答に斎は無言で口元を歪める。・・・まったく、腹が立つ男だわ、本当。一体どうして私はこの男に惚れていたのだろう。

「あ、そうか、私はあんたの家政婦だったんだもんね。付き合ってたなんていわれたら、そりゃあ迷惑だったわよねえ~」

 少し首をかしげて目を細める。そらさない。負けるわけにはいかない。

 さあ、売られた喧嘩は堂々と買ったわよ。どうでる、この男?一体どういう態度に――――――――――


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