女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
「俺を追いかけてきたんだろう?いつだって俺が一番だったもんな。構って欲しくて色々したんなら、許してやるよ」
「・・・」
「4日も入院したのか?そこまで悪いと思ってなくて、顔も出さずに悪かった。でもまりが元気になって本当に良かったよ、俺、あの時かなり心配したんだぜ―――――」
小さな声で話しながら、瞳を伏せて斎が顔を近づける。つけているアフターシェービングローションの香りがふわっと私の全身を包んだ。
斎の伏せた長い睫毛を目前に見ながら、私はそっと微笑む。
そして、唇が触れるギリギリの瞬間、ぼそりと呟いた。
「・・・見くびんな、バーカ」
ハッと目を見開いて、斎がのけぞった。
その時、ストック場のドアが開き、にぎやかな店内の音と共に入ってくる販売員の足音を聞いた。
一瞬、斎が顔を上げて棚の間から入口の方を見た隙に、私はそのまま力いっぱい膝を振り上げた。
ぼくっと鈍い音がして、私の膝は斎の白衣にのめりこむ。
「っ・・・!!」
斎が体をくの字に折って倒れ掛かってくるのを、するりと避けた。やつはそのまま座り込む形になって、苦しそうに肩を震わせている。
私は狭い棚の間の通路にうずくまって咳き込む斎を見下ろした。
足音の主が近づいたらしく、ハッと息をのむ音が聞こえて私は振り返る。
「守口さん?!」