蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜遠き日の匂い〜‡

「張り合いのねぇ」
「所詮お子ちゃまのお遊びね☆」
《『ふむ、子猫のじゃれつきよりも可愛らしいな』》
「…だからと言って…埋めては駄目でしょう?」
「俺じゃねぇ」
《『我ではない』》
「やぁねぇ☆
私でもないわよ?
ただちょっと地霊がやりたそうだったから、いいわよって言っただけで☆」

激昂し、飛びかかってきた『光明の騎士団』十数名は、その数分後土から頭だけを生やしていた。

「出せッッ」
「助けてくださいっ」
「っ苦しいっ」

等々、自由になる口だけを使って、訴え掛けてくる様は、気色悪いの一言に尽きた。

「どうするんです?これ…」
「いいだろ。
このままで」
「そぅねぇ…◎
お口まで埋めてもらえば良かったわね☆」
《『気にするのはそこか…?
だが、口煩いのは迷惑だな』》
「っ貴様らッッただではおかんっこの国から出られると思うなッッ。
十貴族を敵に回したのだからッ、この国を敵に回したも同義ッッ後で後悔するがいいわッ」
「放っておきましょ☆」
「時間の無駄だ」
《『ふむ、これが負け犬の遠吠えと言うやつだな…実際に耳にすると成る程、同族でない以上、耳障りでしかないな…』》

揃って背を向けて歩き出せば、またごちゃごちゃと吠え始める。
そんな惨めな声を無視して幾分か近くなった城を見上げた。
ここまでの道すがら、当然の様に町の景色がかなり様変わりしていることに少し物悲しさを感じていた。
城も、場所は同じであっても、造りが全く違う。
燃やせと命じた本人が言うのもなんだが、ほんの少しでも何か昔のまま残っているものがあれば良いのにと思った。
魂に刻まれた記憶は鮮明で、意識的に考えなくても昔の町並みをまるでフィルターをかけるように見ることができる。
たった一度しか歩かなかった路地も、そこから見えていた高い木も、全て今さっき見たばかりの様に思える。
幻覚にも似た世界を見ながら、ふっと足を止めた。

「どうした?」

気づいたラダが振り返って問いかける。

「今…カナフィス草の匂いが…」
「そうか…?
わからん」
《『ふむ、確かにするな。
そう遠くはないが、人の嗅覚では捉えられんかもしれん距離だ。
姫はよく気付いたな』》
「いや、どうだろう…昔はその先にあった家の庭にあったんだ。
それで感じもしない匂いを感じたように錯覚しているのかも…」

居もしない人の姿を見る様に、あの頃の世界が広がっていた。


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