蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜書庫での出会い〜‡

ずっと見守られている気がした。

『どうした、リュスナ…?』
『…ん…何でもない。
それでラダ、次は何をするのです?』
『ああ、そんじゃぁ次は棒きれでな…』

城を抜け出してラダの所へ通うようになってから、度々誰かの視線を感じた。
それは、感覚が研ぎ澄まされてきたからと言う事もある。
おそらく気付くもっと前からその視線はあっただろう。
知っているようで、でも誰なのか分からない。
だが、嫌な感じはしないのだ。
その視線には、悪意はない。
例えるならば優しく見守る守護者か、もっと簡単に言えば、子どもを心配する大人の様な…そんな慈愛に満ちたものだった。
だから、あえて犯人を探そうとか探ろうと思った事はなかった。
普通ならば気になるかもしれないが、私はそんな好奇心の様なものを持ち合わせてはいなかった。
だから、気付いたのは偶然だった。

っバサッ、ダンッ…
『っ…???』

それは、暇潰しの夜の書庫への散歩をしていた時だった。
眠れない事が当たり前になっていた私は、城の見張りの目を盗んで書庫に入り込むのが楽しみの一つだった。
部屋でいても星を見上げるか、持ち込んだ書物を読むだけ。
世継ぎの問題で兄姉や義母達が襲ってくるなんて言うありきたりな問題も起きないこの王宮では、平和過ぎて退屈な夜しか訪れなかった。
だから書庫へたまに出掛けては夜を過ごす。
そんなある夜、その日は書庫の様子がおかしかった。
灯りはない。
けれど、奥で物音がした。
それも気のせいと思えるような一度だけではない。
断続的に聞こえてくる。
物盗りならば排除しなくてはと思い、ゆっくりと奥へと入っていく。
夜目に慣れた私には、暗く淡い光しか届かない書庫の中でもよく見える。
そうして進むと床に散乱した書物が見え、その奥には今まさに床に書を叩きつけようとする人が見えた。

『…クルス様…?
どうなさったのです…っ?』
『ッッ…リュスナ姫っ?…なぜ…』
『それはこちらの科白です』
『…っ…これは…』

気まずい沈黙。
けれど、相変わらず表情には何も出ない。
散らばった書物は五十冊余り。
種類がばらけていて、何を探していたのかは分からないが、手当たり次第開いていたようにみられた。

『クルス様、先ず片付けましょう』


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