蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜一筋の光〜‡

『失礼致します、リュスナ姫様。
わたくしはクロノス・ディル・マルビンと申します』

初めて正式に面会したのは、彼女が七つの頃だった。

『”さいしょう”でしたね。
はじめまして。
”はは”もすでにない”み”ですが、きょうだいや、その”ははうえ”たちのことはきになさらず、”ちち”や”たみ”のことをよろしくおねがいします』

知ってはいたが、子どもらしくない子どもだと思った。
王家の子どもならば、一通りの礼儀作法は幼いうちから出来て当然とはいえ、普通子どもは言葉の意味を理解してはいない。
空々しく聞こえるのが当たり前で、決められた言葉を”発する”だけになるはずだ。
だが、彼女の言葉には力があった。
意味が感じられた。
それに気付いた時、彼女に興味がわいた。
しっかりと己の細胞に焼き付けるように見る。
光が見える様な気がした。
見た目は可愛らしい子ども。
けれど、中身は芯の通った人間だった。
既に曖昧な子どもの時間は終えている。
もしかしたら、この王宮で唯一まともな人間かもしれない。

『どうかしましたか”さいしょう”…?』
『いえ…。
姫様…わたくしの事はどうか、”クルス”と呼んでいただけますか』
『”クルス”…?』
『はい。
貴女にはそう呼んでいただきたい』
『わかりました。
”クルスさま”とおよびします』
『様はいりません』
『いいえ、わたしがあなたと”たいとう”になるまでは”クルスさま”とおよびします』

面白い事を言う子だと思った。
そして同時にこの子ならば、私の願いを叶えてくれるような気がした。
この子の中に見えた光は、諦めかけていたものを繋ぎ止めた。
この地上に出てきて約千年。
それは長く、”やはり”、”やはり”と絶望する日々。
生まれた場所では叶える事ができなかった。
いや、諦めた。
そうして希望を無くして千年。
地上に出てきて千年。
同じだけの絶望を背負い、この地でも駄目なのかと半ば諦め、この国で最後にしようと思っていた。
それなのに…いや、だからこそ嬉しかった。
見えた光が小さなものであったとしても関係ない。
光さえ存在しなかった日々を知っている。
欲する事を止められなかった愚かな自分がいる。
意味ができた。
この国にいる意味を、理由を手に入れた。
小さな希望を消さない為に…。
私が願うものを手に入れる為に…。

『…私が貴女を御守りしましょう…』

その決意を、顔を伏せ小さく呟いた。


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