蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜夢の名残〜‡

文字通り猛スピードで仕事をこなしながら、ここ数日感じなかった活力を感じていた。
これまでの蒼葉の昏睡日数は最長でも三日。
かなり無理をしていたのはわかっていたから、今回も三日ほどになるとは予想していた。
だが、丸三日経っても目覚める気配がない。
眠る蒼葉は、呼吸をしていないのではないかと思うほど深く眠る。
そっと触れて体温を確認したり、呼吸を確かめたりと、何回経験しても慣れない。
更に今回は最長記録を更新し続けて五日。
四日目に入ってからは、ほとんど眠れなかった。
一応横にはなる。
勿論、悪いとは思ったが、蒼葉の隣に潜り込んでだ。
最初の日のように抱き締めはしないが、身動きをしたらわかるようにできるだけ近づいて眠った。
このまま目覚めないのではないかと思い始めた五日目の昼。
ようやく蒼葉が目を覚ました。
心から安堵した。
思わず抱き締めてしまいそうになる衝動を抑え、部屋を出た。
屋敷の使用人達を安心させ、後を頼むと真っ先に会社へ向かった。
葵に目覚めたと伝えれば、最後まで話を聞かずに、ものすごい勢いで飛び出していってしまった。
自身も屋敷に戻りたいと思ったが、仕事が溜まっているのを思い出し、仕方なくそのまま執務室にとどまった。
仕事を始めれば、良くも悪くも他の事を何も考えられなくなる。
この五日間、ふとすれば捕らわれそうになる夢に苛まれ続けた。
眠れなかったのは、蒼葉が心配だったと言うだけではないかもしれない。
多分、あの夢にもう一度向き合う勇気がなかったのだ。
ただの夢だと思うにはリアル過ぎた。
だが夢ではないとしたら何だというのか…。


この時は気付きようがなかった。
この数日後、それは始まりの予兆であったのだと確信するのだった…。



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