蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜絶望の先に〜‡

俺が生まれた家は、堅苦しくつまらない家だった。
祖父母、両親、叔父、叔母、全て医者と言う家系。
当然、そんな家に生まれた俺は、『医者になる為に生まれてきた子ども』だった。
物心つく頃には、家庭教師が朝から晩までいたし、テストは百点以外認められなかった。
”優秀”でなくてはならなかった。

そんな白黒で描かれるような日々から目が覚めたのは、十五の時だ。
思えば、毎晩見る夢を意識しだした時だったと思う。
突然、周りの奴等が見えるようになった。
別に目が悪かったとか、眼中になかったと言う事ではない。
飛び起きるような夢見のせいで、精神的に追い詰められていたからかもしれない。
防衛本能みたいなものなのだろう。
力を抜かなくてはならない状況。
それがきっかけだった。

様々な変化が起きた。
初めて自分の意志で親に逆らった。
友達と言うものができたのもこの時だ。
そうすると、いよいよ自分の家の異常さがわかるようになってきた。

バイトをするようになると、多くの人と関わるようになり、少しずつ人を理解するようになった。

そうして知ったのは、俺は人が嫌いだと言う事だった。


『医者にならないやつは、身内ではない』


そうはっきりと家族に宣言されると、自然に家に寄り付かなくなった。
必然的にバイト、バイトで高校は中退。
もちろん、勉強が嫌いになったわけじゃなかった。
退学するまで、テストはいつでも学年一位だった。
だから、勉強が出来ないわけじゃない。
仕事を覚えるのも早いし正確。
ただ、人と関わる能力が足りなかった。
人付き合いが悪いのではない。
普通に会話も成り立つ。
だが、常識から外れた行動をする人に、過剰な程、敏感だった。
年若い者には珍しいかもしれない。
例えば…。
会計待ちの為に用意された通路を、出口から堂々と入ってくる者や、順番待ちをせずに割り込んでくる客。
買った商品の袋の口に”お買い上げシール”を貼るなと言う客。
レシートが要らないなら要らないと言えば良いのに無言で振り払う態度の客。
小さな事かもしれないが、これが俺には許せなかった。
そんな俺だから、あの店員は態度が悪いとクレームをつけられ、辞めさせられた事も珍しくはない。
客も店員も等しく人だ。
互いに気持ちよく同じだけ思いやるべきではないか。
そんな事を考えながら、俺は疲弊していった。
わざと暴力団にケンカを売った事もあった。
社会そのものを憎み、世界に絶望した時、彼女に出逢ったのだ…。

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