蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜姉の想いを〜‡

今でも、あの無力で幼かった自分を思い出すと、何もかもを滅ぼしたくなる。

『おじい様、わたしに戦う術を教えてください』

そう言ったのは、姉の死から二月が経った頃だった。
幼いながらも考えて出した答えは、強くなる事だった。

『なぜだ?
闘いたい相手でも居るのか?』
『何よりも弱い自分と戦う為に。
そして、わたしが正しいと思った事をできるようになるには、強い精神と力が必要だと思ったのです』
『ふむ。
よかろう。
好きにすると良い。
教えてやろう』

そうして十年、二十年と魔術や力を磨いた。
その間、あの国を忘れてはいなかった。
一人国を抜け、あの国の現状をつぶさに把握した。

わたしが初めてあの国に介入したのは、意地汚くも、あの乱で民衆に味方し生き残った貴族の一つが王に立った時だ。

『かつて王族は、我らに悪政を行い苦汁をなめさせてきた。
それを見事討ち滅ぼし、今日のこの国を守り抜いたのだ。
私は誓う。
もうあのような日々を二度と繰返さない為に、最後まで壁となった悪神のごとき”王の騎士”を討った、あの純粋なまでに国を愛した民の力と覚悟、想いを忘れる事なく、国の為に邁進していこうと思う』

誰が”悪神”だ。
ふざけるな。

姉の覚悟を知っている。
もう何もわからなかった子どもではない。

姉が命を掛けて守ったのは”民”だった。
なのに、その”民”はこの恩を知らない。
もちろん、知ろうとすれば知る事ができた。
だが、真実を知ったやつらは、そのまま口を閉ざす。
誰も大勢の者達相手に異を唱えたくはないからだ。
外れたくないからだ。
最後は保身。
正義だ真実だと語るやつら程、皮肉なことにそれは顕著だった。

姉さま…。
貴女は、こんなにも矮小な存在の為に死んだのですかっ
わたし達よりも、こんな奴等の事を考えていたのですかッッ。

許せなかった。
姉の想いを侮辱したやつも。
それを支持する民達も。

そして、初めて人を殺した。
呆気なかった。
国の事で話をしたいと言ったら、不審な顔をしたが、セイレン国の王族だと言えばいやらしい笑顔で屋敷に招いてきた。

『あの乱の折は、あなたは何処におられたのですか?』
『お恥ずかしながら、反乱軍の後方支援を父としておりました。
ここだけの話、私はあの乱を率いていた若者があの姫を討つところを実際に見ておりまして…。
いやぁ、あれは素晴らしい一撃でした。
”王の騎士”と呼ばれていても、所詮は女。
貫かれるまで動く事もかなわず立ち尽くしておりましたよ…っ…何を…っぁッッ』

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