蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜黒き石の問い〜‡

暗闇の中でたゆたう身体。
意識も留められずにいたその時、突然目覚めるような感覚が襲った。

『ラダっ』

薄く目を開ければ、そこには予想通りの姿があった。

「…リュス…ナ…」

声が辛うじて出たと言う程度の声量。
それでも、届いたと言うように、嬉しそうに微笑むのが見えた。

《目が覚めたか》

唐突に響いた声と共に、目の前に黒い石が現れた。

「誰だ…」

《我のかつての名は、サジェス・ユノ・クライネル。
クライネル国、第三代国王。
我が血を受け継ぐ者よ。
我を求めるに足る意志を示せ》

『ッラダっ』

《”記憶する姫”よ。
暫しこの者は預かる》

『ッッ…ラ…っ』

ふっと闇が濃くなり、リュスナの姿が消える。

「っ…何だ?」

《示せ。
汝の意志を。
強き己が心を…》

「意志…?
心?
何を言っている…?」

”サジェス・ユノ・クライネル”

それは、今やお伽噺となった『精霊王と金の姫』の元となった石になった王の名前。
間違いない。
『金の姫』の腕輪にはめられていた黒い石だ。

《我が血を受け継ぐ者よ。
我に示せ。
強き想いを。
我を真に求めよ》

想い。
求めるもの。

精霊王から、この話を受けた時、正直どうでも良いと思った。
リュスナが居ない世界に、俺は耐えきれなくなっていた。
また失うのが嫌で、誰とも関わらずに生きる日々。
寂しい…と、思う心さえ無くしたようだった。
ふとした時に考えるのは、リュスナにとって俺はどれ程の存在だったのだろうかと言う事。
生きていてさえいたなら、俺はどんな協力も惜しまなかっただろう。
国を建て直す事だって協力した。
王になるならば、官にさえなってもよかった。
反対に、こんな国をもう見捨てると言うのなら、喜んで共に国を出ただろう。
結果的にどうであれ、俺がリュスナの傍に居ることに変わりはなかった。
俺の生きる場所は、リュスナの傍だと決めていた。
いや…もうそこにしか居場所を見出だす事ができなくなっていたのだ。
だから。

「あんたが何者でも関係ない。
瘴穴をこのままにすれば、またリュスナは命を掛ける事になる。
そんな事…っもう絶対にさせねぇッ。
俺はあいつが笑えない世界なんて認めないっ。
辛い思い出ばかりのこの世界にまた帰って来てくれた。
自分を犠牲にして守った世界を見て後悔するなんて事をさせるつもりはないッ。
あいつが…リュスナが笑ってこの世界を振り返られるように…っ。
役目を果たせッ。
瘴穴を封じる力をッ」

目の前に浮かぶ石に手を伸ばし、握りしめる。

《…汝の強き想い…受け取った…》

その言葉と同時に目を開けられない程の光がほとばしった。


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