蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜守護者〜‡

「ふぅ…まぁ、こんなもんか…」

っバンッッ

「…ユウリ…扉を壊すなよ」
「っあれほど言いましたのにッッ。
他次元に干渉されては、お身体が保ちませんっ。
倒れたらどうなさるおつもりですッ」
「…チッ…ナーリスに言い訳を考えさせるの忘れてたな…」
「レン様ッッ聞いておられますかッッ」
「あぁ…あんまし怒鳴るな。
身体に悪いぞ」
「っ…誰のせいで…っ」
「うん?
あぁ、私のせいだな。
すまん。
落ち着け。
ほら、私は何ともない。
心配してくれたのだろ?
ありがとう。
ユウリ」
「っ…っわっわたくしはっ…はっご無事ならッ…それで…」
「うん。
体調も問題ないよ。
仕事の途中だろ?
お前も無理せずにな」
「はっ…はい。
では、失礼いたします」
「うん」

静寂の戻った部屋。
椅子に深く腰掛け、考えるのは彼らの行く末。

「あれも大概諦めが悪い…。
瘴穴か…厄介な位置だからな…」

瘴穴は入口となる。
それを知っているのは、その次元の守護者だけだろう。
自然に開いてしまったのなら、対策のしようがある。
呪具や聖具によってすぐに塞ぐ事ができるのだから。
だが、故意に開けられたとしたら、話は変わってくる。

「最近は随分大人しくなっていたのにな…」

窓の外に目を向ければ、雲間から射す光が広がっている。
その光に美しく照される草木。

「…光はやはり力…か」

魔界。
確かに暗く陰鬱な所だ。
一日の内、僅か三、四時間しか陽の射さない世界。
壁一枚隔てた向こうに、約半日もの間、光のある世界があるのならば、手に入れたいと思っても仕方がない事かもしれない。
欲しいと欲する想いは、簡単には昇華できないものだ。
知ってしまったのなら、それを知らなかった事にはできない。

「わかるんだがな…」

だからと言って、元から在る者を脅かしてはならない。
それは古くからの盟約だ。

「ナーリスだけでは心許ないか…。
まぁ、切り札は用意しておいて損はない」

椅子から立ち上がり、扉へと向かう。
上衣を羽織り、ゆっくりと扉を押し開く。
誰もいない廊下を確認して笑みがこぼれる。
出掛けた事を知ったら、また小言を食らうだろう。
それも日常茶飯事。
静かに、足音を立てないようにゆっくりと歩く。
扉の間まではそう距離はない。
目的の部屋に、誰にも見つかることなく辿り着き、スルリと中へと滑り込む。
そのまま中央の円の中へと歩みを進めた。
目を閉じ、門を開く術を構築するため、意識を集中する。

『なぜそこまでしてくれるの?』

ふっと昔、次元の通路をナーリスのいる世界と繋げた時に言われた言葉が浮かんできた。

「ふっ…同類だからな…」

呟いた言葉と共に、一瞬強く瞬いた光の魔法円へと吸い込まれていった。


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