蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜弟として〜‡

そっと上から改めて重ねられた手は、覚えているものと変わらない大きさと暖かさで嬉しくなる。
今までに感じた事のない程の静謐で、清らかな空気が満たした世界。
今その世界に、大好きな姉と共に居る。

心が歓びに震える。
憎んだ事もあった。
思い出せば辛くて、心が軋んだ。

けれど、今はそんな事はどうでもいいと思える程、心が満たされている。

「マリス?
どうかした…?」

そっと目元を布で撫でられ、自分が泣いている事に気が付いた。

「ッ…っ」

恥ずかしくて、慌てて姉に背を向けて離れ、袖で乱暴に涙を拭う。

「ふふっ。
馬鹿ね…」

回り込んできた姉が笑いながらそっと抱き締めてきた。

「泣いて良いんだよ。
男の子は、我慢するからストレス溜まるんだ。
一人で泣く時も必要だけど、こう言う場合は、姉さまの傍で泣きなさい…。
いつでもこうして、抱き締めてあげるから。
あなたが『姉さまなんて嫌い』って思わない限り、必要な時は傍にいるから…」
「ッ…うっ…ふっ…っっ…」

優しく、暖かく背を撫でてくれる事が、信じられない程幸せで…。

「っ…ねぇさまっ…ねぇさまっ…」

どれ程の時間が経っても…。
例え姿が変わってしまっても…。
あの頃のままでなくても…。

変わらなかった想いがある。

”ねぇさま、大好き”

愛している。
もう離れないで欲しい。
守るから…。
あの頃の、子どもだった私ではないから…。
守らせてほしい。
ずっとずっと傍にいる為に…。
何だってする。
何だってできるから…。

溢れてくる想いは止めどなく。
満たしても満たしても足りないと訴えてくる。

「ねぇさまっ…大好き…っ。
もう、どこにも行かないでっ。
置いて逝かないでッ…っ」

子どもだ。
まだまだ姉の前では…。
だけど、それでもいいでしょ?
貴女の弟のままでいたい。
貴女が愛してくれる弟のままでいたい。
わがままを言って、困らせてもいいでしょ?
貴女だけの弟なのだから。

「ねぇさま…大好きだよ…。
傍にいて…」
「…うん…傍にいるでしょ?
私も、マリスが大好きだよ…」

甘くて困る。
傍にいるって言っても、きっとあちらの世界に何食わぬ顔で帰って行くだろう。
大好きは何番目だろう。
優しくて…でも残酷で…。
けど、そんな姉でも大好きだ。
沢山の大好きの中の一人でも良い。
だって、姉は忘れない。
どれだけ離れても、どれだけの時間が経っても、絶対に忘れたりしないのだから。

「ねぇさま、覚えていて…。
私は、いつか絶対にねぇさまの一番になるから…」
「?一番?」
「うんっ、ははっ」

貴女に一番に想ってもらえるようになるよ。

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