蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜貴女に想いを〜‡

ようやく、蒼葉と二人になれたのは、あれから三日後の事だった。

「話があるって聞いた…。
でも、その前に…心配かけてごめんなさい…」
「っ…ッ」

驚いた。
今までどれだけ言っても『心配かけて…』なんて言葉は出てこなかったと言うのに…。
「っ…何よっ…べつに良いじゃない…」
「何も言ってませんよ?」
「顔に書いてあった…」

不貞腐れたように顔を背ける姿も新鮮で、これから大事な話をしようと思っているのに、頬が緩むのを止められない。

「春臣っ」
「ふっ…っはい」

名を呼ばれるのも久し振りで嬉しくなる。

「っ…話は…?」

そうだ話を…。
話をしなくては…。

「…蒼葉様が居なくなって、鍵を探して…それで思い出した事があります…」
「思い出した事…?」

ずっとこちらへ来てから考えていた。
本当に話すべき事なのかどうか…。
話したらどうなってしまうのか考えた。
けれど、隠しておく事も自分には出来そうにない。
それに、蒼葉には隠事をしたくない。
してほしくないからだ。

だから…。

「私も過去を覚えていたのです…。
貴女と同じように…。
私はかつて、この世界に生きていました。
貴女と同じ時を…」
「っお前が…?」
「はい…」

覚悟はできた。
それに、どんな結果になったとしても、絶対に変わらない想いがある。

「私のかつての名は、バルト…バルト・オークス…」
「っ…ッ…」

言葉をなくし、凍りついた蒼葉を見る。
拒絶されるかもしれない。
けれど、それでも良い。
心は決まっているのだから。
この決意だけは誰にも邪魔をさせない。

「…っ…バルト…」
「蒼葉…様…っ」

ばっと立ち上がったかと思えば、扉に向かって駆け出した彼女を、反射的に掴まえ抱き寄せる。
震えているのが分かる。
動揺が伝わってくる。
だから、安心させるようにゆっくりと、しっかりと胸に抱き込んだ。

「蒼葉様…貴女は、私にとって大切な方です。
それと同じくらい。
リュスナであった貴女を大切に想っていた…。
あの時の感覚は、忘れる事ができない。
貴女をなくしたあの時の感覚…。
だからこそ、今が幸せで仕方がない。
なくした貴女ではないけれど、貴女を…抱き締めている…。
けれど、貴女があの時の私の罪を許せないのなら…」
「ッ違うっ。
私はお前に…お前を…裏切った…心を、理解していなかった…っ私はッ…んっ…っ」
「…ずっとこうしたかったんです…。
貴女を愛している…。
もっと早く言えたら良かった…。
貴女に他に愛する人がいたとしても構わない。
あの時の私を許すと言うなら、知ってください…私の心を…」

卑怯でも良い。
もうなくす気はないのだから…。


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