蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜出会い〜‡

「…ハルオミ」
「なんです?
もうじき着きます。
眠らないでくださいね」
「…わかってる…」

濃いブルーの夜会服に着替えさせられ、手際の良いメイド達に髪やら顔やらをいじり回され、うんざりしていると彼に車に放り込められた。


”柚月春臣”


それが彼の名前だ。
その昔道端で拾い、人の良すぎる父の為に使えるように色々と教え込んだ。
冗談で言っているのではなく、本当に道端に捨てられたように転がっていたのだ。
当時、メイドや他の使用人達は、面白そうに『逆・光源氏作戦ですねっ』とか勝手に盛り上がっていた。

本当に良い拾い物だったとつくづく思う。
薄汚れていたが、一瞬”あの人”に見えたのだ。
気づいた時には声を掛けていた。

『行くところがないなら、うちで働かない?』

当時、まだ小学生だった私が手を差し出すと、あからさまに無視をした。
彼から見れば、私自身、かなり怪しかったのかもしれない。
そこは繁華街の裏路地だった。
子どもがうろつく場所ではない。
あの日は日課にしていた散策の途中だったのだ。

『とりあえずその身なりとケガをどうにかしよう。
私はサミヤ。
早宮蒼葉。
これでも早宮グループの会長の孫だから、何なら利用できるよ?
そんなナリじゃ何処にも行けないだろうし、疲れているんじゃない?
付いて来て』

目が合った時、そう言って背を向けて歩きだせば、何も言わずについて来た。
待ち合わせていた車に乗り込み手招きすれば、憮然とした顔のまま大人しく隣に乗り込んできた。

『私用の屋敷があるんだ。
人一人増えても文句もでない。
むしろ、仕事ができたとメイド達がよろこぶかも』
『…信用して良いのか…』
『何を?』
『俺がお前を人質にして、金を要求するつもりかもしれないだろ。
運転手もじいさんだしな』
『菅沼さんは、強いよ。
年寄りだからと油断しない方が良い。
痛い目をみる』
『それが事実だとしても、お前を盾にしたら関係ないだろう』
『私も強いよ』

国一つ滅ぼせるほどに…。


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