蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜護る者〜‡

「ソウハさま。
蒼葉様ッ」

広い屋敷の中を大股で歩く。

「ユヅキさん、お嬢様は…」
「まだだ。
書庫にもいらっしゃらなかった…あとは…。
お前達は、出掛ける用意を進めておいてくれ」
「「「はい」」」

出掛ける予定は伝えてあった。
今朝方見かけた時、いつもと何か様子が違った。
気づいていたのに、仕事が気になって何もしなかった。
今はそれが悔やまれる。

「後は…」

あの人が行きそうな所はほとんど探した。
残るは屋敷の裏に広がる庭園だ。
窓から庭園を見れば、美しく整えられた緑と鮮やかな色の花々が広がっている。
考えられるのは、五つある東屋の、特にあの人が気に入っている北にある場所だ。
早足で歩き慣れた庭園を最短距離で横切れば、そこに蒼葉はいた。

「…蒼葉様…」

ほっと安堵し、眠っているその人を揺り起こす。

「蒼葉様、出かける時間ですよ」
「…ん…っ」

疲れの見える青い顔。
また、あまり眠れていないのだろう。

「蒼葉様」
「ん…?もうそんな時間…」
「…どうします?
去年の様にカードだけ届けて、後日改めて…」
「……パーティーは苦手だけど、今回はお祖父様の全快祝いも兼ねているし…」
「では、失礼します」

そう言って、返事を聞く前に、軽々と蒼葉を抱え屋敷に向かう。

「歩ける…」
「いいえ。
顔色が悪い。
もう少し休んでください」
「…夢が…」
「何です?」
「…夢見が悪かったんだ…。
眠れなくて…」
「ええ。
昨夜は眠る日だったはずですね。
疲れてらしたのに夢を見るなんて珍しい」
「うん…。
結局、あまり眠れなかった…」

抱かれた腕の中で、胸に頬を寄せ、寄り掛かるように目を閉じる蒼葉の顔には、確かな疲れの色が見える。

「どんな夢だったのです?」
「…最初の…最期の記憶……」
「…?…」
「…ん…いいんだ…。
たいした夢じゃない。
今夜はきっと眠れる…」



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