蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜森の中〜‡

森は深く、どこまでも光が届く事はない。
ただ全てに薄暗い闇が広がっている。
後ろを一瞬振り返れば、黙って付いてくる”リュスナ”がいる。
側に居ることは、気配でわかる。
だが、目で直接何度も確めないと不安だった。

もう一度会えた。
すぐ側に存在を感じる。

今の俺に怖いものなど存在しない。

「そう言やぁ、今の名前は何だ?」
「ああ、名乗ってませんでしたね。
蒼葉です。
蒼い葉と書きます」
「ふぅん…蒼葉…似合いだな…」
「何か?」
「いや。
蒼葉…な。
よしっ覚えたからな」
「はい」

名前を覚えるのは苦手だ。
単に物覚えが悪いと言う事ではない。
長く付き合うつもりのない者の名前を覚える必要がないと思っているからだ。
長く生きていれば、雑になるのは仕方がないだろう。
物事、いずれ出来れば良いと考えるようになると、”努力”をしなくなる。
長い時間があると思うと、時が経てば自然に出来るようになるだろうと思い至る。
子どもがいつの間にか立ったり喋ったり出来るようになるのと同じで、生きるのに必要な事は、大概自然に身に付く。
呼ぶ必要のない名前を幾つ覚えても役には立たない。
だから始めに判断する。
付き合っていけるヤツかそうでないか。

「何考えてるんです?」
「ん…?
俺の判断は間違っていなかったと思ってな」
「?…それは、こんなギリギリまで仕事を放置していた事ですか?
それとも、無謀にも森を抜けようとする事ですか?」
「どっちも違うが、どっちも合っている」
「…?ラダが言う事は、たまに訳がわかりません」
「何でだ?
そこは以心伝心、分かれよ」
「なら、伝えるつもりで話してください」
「ふんっ。
よしっならばテストだ。
俺がなぜ今考え事をしているか当ててみろ」

今度は見失わない。
二度と同じ過ちは繰り返さない。
共に在りたい。
いつでも側に…。
どんな状況に陥ったとしても大丈夫。
こいつが側にいるのなら…。

「…ラダ…あなた…」
「ん?」
「…迷いましたね…」
「っすごいぞっ。
正解だ」
「っ…ラダッッ」

そう、こんな状況でも必ず何とかなる。
ちゃんと道が見えてくる。


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