蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜危険な気配〜‡

今更ながら後悔した。
深い森の中。
なぜこの人に付いてきてしまったのだろう。
”考えなしの節操なし”そうクウルにも評価される人だ。
自信満々に進んでいく事に安心して、こちらも対策を考えなかった。
四方全てが薄暗い闇に包まれる森。
最悪の状況だ。

「…打開策はあるんでしょうね?」
「いや。
何も考えてない。
大体、真っ直ぐ進めば抜けれるだろ。
変な気配のせいで方向がわからんがな」
「…」

本当に何も考えていない。
ラダは方向音痴ではないはずだ。
雑な考えだが、確かに真っ直ぐ進めば良い話。
ラダは来た方向をしっかり感知しながら歩ける人のはずだ。
私自身も、道に迷った事はない。
だから、間違いなくこの森は変だ。
ラダの言っている”変な気配”を私も少し前から感じていた。

「視線?誰かに見られているような…」
「あぁ。
それもきっついヤツだな。
トゲがある」

《…グルルルっゥゥッ》

耳をすませれば聞こえてくる。
荒い息づかい。
ピリピリとした警戒心。
こちらの様子を伺うように慎重に近づいてくる。

「獣か?」
「そのようですね…でもこの気配…」
「知ってるのか?」
「いえ…少し違うような…でも確かに昔…」

我ながら珍しい。
知っている気配に似ている。
そう、時間を経て変化したようなそんな違い。
根底にある物は変わらない。
そうだ、ならば間違いないだろう。

「ラダっ…”化け犬”です。
魔界の…ケルベロスの眷族…」
「何で知ってんだ?」
「昔、東の鎮守の森に住み着いていた”化け犬”を退治しに行きました。
母親と子どもが三匹。
人里で人間をかなり食い殺されてしまっていて…母親と二匹の子どもを狩ったんです」
「?一匹はどうした?」
「弱かったらしく、母親と兄弟に見捨てられていて…見逃してしまいました…」
「…まさか…そいつか…?」
「ええ…立派に育ったようですね…」
「お前な…」
「っ来ますッ」


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