蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜抜けた先〜‡

森を抜けた先には、薄暗い雲に覆われた空と、小高い丘が広がっていた。
丘の上に見える建物が、ナーリスの屋敷だろう。

「ラダ。
あの屋敷で間違いないですか?」
「…ああ…」
「?っあっすみませんっ引っ張り回す形になってしまって…でも無事森を抜けられました」
「…ああ…」
「?…」

先ほどから覇気がない。
手を引いて走って来たが、されるがままと言うのはラダらしくない。

「…ラダ…すみませんでした…」
「何に対しての謝罪だ…?」
「?…闘いにみずをさしてしまって…」
「っ…それだけか?」
「…どうお詫びすれば…」
「っその事じゃないッッ。
お前はッまた同じ事を繰り返す気かッッッ」
「…?な…っ」
「わからんのかッッ。
ッ…仕事が終わるまでに自分で気づけッッ」
「…っ?…」

ラダは肩を怒らせたまま、背を向けてさっさと屋敷に向かい歩き出してしまった。
取り残される形で、呆然と遠退いていく背中を見る。
我に返り、慌ててラダを追う。
わからない。
なぜいきなり怒りだしたのか。
あれほど生き生きと闘っていたのだ、絶対にその邪魔をした事に怒ったのだと思った。
実際、稀に見る輝きぶりだった。
他に気にさわる事と言ったら、手を引いた事くらいだ。
子ども同士でもあるまいし、馬鹿にされたように感じたかもしれない。
うん。
これが一番あり得そうだ。
ラダは人一倍、いや、人の二十倍くらい矜持が高い。
あの扱いは気に入らなかっただろう。
だが、”同じ事を繰り返す”と言うのが引っかかった。
昔も今も、手を引いたのはこれが初めてだ。
手を引いて引っ張り回すなど、そんな機会は存在しなかった。
ならば何の事を言ったのだろう。
以前にもあった事。
私がやった事…。
全く思いつかない。
けれどなんだか…以前にもこんな怒られ方を誰かにされた事がある…。
そんなに昔ではない。
今生でだ。

「…春臣…?」

そうだ、春臣だ。


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