蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜取り引き〜‡

《『我はお主を知っている…』》
「…私は以前、あなたの母と兄弟に手をかけた者達の一人…。
あの日に私達は会っている…」
《『…あの時の…そうか…』》

恨まれていても仕方がない。
親と兄弟だ。
それを亡くして、長い時間どうやって生きてきたのだろう。
人間の勝手な言い分で殺され、住み処であった森を追われて…。
共存するには、彼らは殺し過ぎた。
けれど、初めは生きる為に必要となった行為だったはずだ。
脅かされて剣をとり、反撃された事に憤り、その繰り返しによって”共存”と言う選択肢は消えてしまった。

「あなたは恨んで良い…。
私を殺したいと思ったとしても、それは自然な事…。
けど、待って欲しい…。
私はやり直す為にここに来たから。
死ぬ前にやらなくてはならない事がある」
《『やらなくてはならない事…』》
「”北の魔女”ナーリスに会う。
彼女からある物を受け取って、それを在るべき場所に戻す」
《『それがやらなくてはならない事か?
お主がやらずとも、そこにいる者にやらせれば良いだろう。
なぜお主がやる…?』》
「彼は、私がこの世界の為にできる事を提示してくれた。
私はこの世界の為になる何かをする為に帰ってきた。
これは私がやるべき事。
何があっても成し遂げたい事。
だから、今は見逃して欲しい…」
《『その話で我がお主らを見逃すとでも…?』》
「…あなたは…無意味な殺しを良しとしない…。
そう感じる…」
少なくとも彼は見逃してくれるでしょ?。
私への恨みがあるならば、闘っても良い。
だけど、私もこれを成すまでは死ぬつもりはない。
全力で闘ってこの場を切り抜ける」
《『…っくくくっそうか…。
ならば行け。
我は今、お主をどうしたいのか決めかねている。
行って、帰りにもう一度会おうではないか。
その時までに決めておこう。
魔女の庵はあちらだ。
今度は迷う事もなかろう』》
「ありがとうっ。
行こうっラダっ」

ラダの手を引き、早足に森を進む。
出口がわかる。
何かに引き寄せられるように、前へ前へと…。
そして、その先に淡い光が見えた。





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