蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜近くて遠く〜‡

彼女を幸せにしたかった。
ささやかな成人の祝いさえできなかった乱世。
彼女は誰よりも強く、誰よりも美しい。
戦場の真ん中で、的確に作戦を立て、鮮やかに実行していく。
同じ年頃の少女達は、ただ嵐が過ぎ行くのを待つように、家に閉じこもっていると言うのに…。
毎日体に傷をつくって、それでも先ず他人を手当てする。
そして夜、眠る事も忘れて、明日の為に机に向かう日々。
何の為に生きているのだろう。
誰もが穏やかな明日を思い描き、戦いに挑む中、彼女だけは、明日のその先を見ているようだった。
彼女は、没落した貴族の姫だと名乗り、共を数人引き連れて、ある日突然アジトに押し掛けてきた。
最初は多くの者が反発した。
貴族の姫など、敵である国側の人間だと言って、わざと激戦地へ送りこんだ。
死んでも良い奴らだと言って送り出した。
俺自身もその考えを当たり前のように振りかざしていた一人だった。
だが、彼女はそんな絶望的な戦場から帰ってきた。
幾度も。
驚いたのは、ただの一人も死なせなかった事だった。
勿論、大怪我をして動けなくなった者達もいた。
だが、誰もが命だけはとりとめた。
何ヵ月も戦場を共に駆け、彼女の共をしてきた者達とは打ち解け、冗談も言いあえるようになっても、彼女は一人離れた場所にいた。
まるで見えない壁でもあるように。
神性で侵しがたい距離があった。
それは最後の戦いに向かう日まで変わらずに…。

心を開いてくれていたと思った。
少なくても俺にだけは。
優しく儚く微笑む顔を向けてくれるようになった頃、ふっと、彼女はいったいこの世界の何を見ているのだろうかと思った。
隣にいても、どこか遠くて。

最後の城への奇襲作戦を立てている時の彼女は、これまでで一番穏やかな顔で空を見上げていた。
これで終わる。
長い戦の日々。
それが終わるのだ。
誰もがその先の明るい未来を思い描いて眠りについた。

そして、誰も予想しなかった結末を迎える…。


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