蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜過去を胸に〜‡

「…これが、依頼に来た男の話した彼の国の過去だ…」
「…」

何だろう。
何かが胸につかえる。
気持ちが悪い。
思い出したくない。

「…っ…っ」

自分の中で何かが起こっている。
話を聞き出してから、得たいの知れない何かが出てこようとしているのを感じていた。

「…やはりそのようだな…」
「っ…!?」
「覚えがあるのではないか?
たまに夢で見ただろう。
知らない誰かの人生、想いを感じなかったか?」
「っ…どうしてっ…」

何でも見透かしそうな瞳は、怪しい光を宿してこちらを見ている。
知らないとは言えない。

「…俺が…わたしが見るのは…愛していた女性を殺す夢です…っどうしようもない衝撃と慟哭…子どもの時から時々、ふっと思い出すように見る夢で…」

幾度見ても、他人事として見る事ができなかった。
びっしょりと嫌な汗をかいて飛び起きる。
失いたくない。
失ってしまった。
その絶望した夢の中の男が、いつしか自分自身に置き換わってしまう。
愛した人の血で汚れた手の震えを止められない。
深く抉られていく心が痛くて仕方ない。
そうだ、心のどこかで予感はあった。
話を聞いてから震えのとまらない両手。
急激に冷えていく体。

「…もう気づいているな。
強烈に魂に焼き付けられた記憶は、消える事はない。
気づいたお前は、徐々に思い出していくだろう。
だが、必要な事だ。
彼女を一人にしない為にも」
「っ…蒼葉…様…」
「そうだ。
彼女は孤独だった。
その孤独を埋めようと、無意識に求めている。
お前も恐れるな。
”後悔”とは二度としないと自分自身に誓約する鍵だ。
いつでも前を見ていなくてはならない。
先を読み、ただ守りたいものだけを思えばよい。
想いが届かなくても、求めたものを守る事はできる。
持っていきなさい」
「っ…」

視界が開けていくようだ。
霧のかかった向こう側が見える。

「今のお前になら、なぜこれを彼女に渡したくなかったかがわかるだろう。
その真の意味を成す為に、行かなくてはならない。
大丈夫だ。
お前は、過去の愚かだった男ではない。
囚われるな。
そこを抜け出して求めろ。
過去のお前が成し得なかった明日を手に入れる為に…」
「…っありがとうございます…っ」

過去の自分の手にあった鍵が、数百年ぶりに再び戻った。
手渡された鍵を握りしめ、深く、深く頭を下げた。

< 65 / 150 >

この作品をシェア

pagetop