蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜彼の人を求めて〜‡

《みみ〜ぃ〔こっちよ〜〕》
「ちょっと待ってっイルっ」
《みみみ〜〔がんばって〜〕》
「おいっ。
本当にこっちに蒼葉様が居るんだろうな?!」
《み?みみ〜〔いないかも?でもくるよ〜〕》
「えっ?!
居ないのか?!
じゃぁこんなに走らなくても…っ」
「おいっチビッ子っ。
俺は蒼葉様が居るところに案内しろと言ったんだぞっ」
《みみみゅ〜ぅ〔ちゃんとあえるからだいじょうぶ〜〕》
「すぐに会いたいんだッッ。
だいたい、どこに向かってるんだ?!」
《みみぃ〜〔せいれいおうさまのもり〜〕》
「精霊王?!
マジで居んの?!
っすっげー!」
《みっみっみ〜〔こっちこっち〜〕》
「待てってッッ」

朝日が昇って間もない頃、着いた古い神殿は、荒廃していても、そこがどんな場所として使われていたのか知っていた。
胸元の、服の中で揺れる”鍵”は、時が経つにつれ多くの情景を思い出させてくれた。
この世界で生きていた頃の記憶。
幾度と見た夢の中の愚かな男の記憶。

”バルト・オークス”

愛した人を殺した男。
”鍵”を手にした時、最初に思い出したのは、彼女の死に顔と、いつまでも血を流し続ける心の痛みだった。

”俺”は、二度とあの世界に彼女を行かせないと決意していた。

辛い思いをもう、一つとしてしてほしくない。
あの世界の、あの世界に生きる者達の為にもう二度と何かをしてほしくない。

彼女は知らない。
あの後、あの国の人々が何と言ったか。
戦いもしなかった民衆達が、すべてが終わった後、何をしようとしたか。
知らなくて良い。
知ってほしくない。

だから早く。
一刻、一瞬でも早く彼女に会わなくては…。
見つけたら、すぐに連れ戻すんだ。
彼女が心穏やかに生きていける世界へ。
ずっと傍にいられる優しい世界へ。

「ほら、柚月っ。
置いてくぞ」
「偉そうに言うなっ。
だいたい、お前が何で付いてくるんだッ」
「ふんっ、柚月だけじゃ心配だって、ウルじぃに言われたんだよっ。
信用ならん大人は、誰かが見ててやらんと何するかわかんないんだぜ〜」
「ッ誰が信用ならん大人だッッ。
こっちはウルサイお荷物ができて、良い迷惑だッ」
「何だとッ。
お荷物はそっちだろっ。
そろそろオッサンは息切れすんじゃないのかっ?」
「誰がオッサンだッッっ」
《みみゅ〜〔どっちもどっち〜〕》

そんな風に言い合いに夢中だった二人と一匹は気付かなかった。
人気のない野山を駆けながら低レベルな喧嘩をする大小の人族を木陰から見つめる者がいたことに…。


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