蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜夜空に瞬く〜‡

頬を少し強く風が撫でていく。
春も半ばの温かい風。
大きく息を吸い込み見上げれば、雲のない深い藍色の星空が広がっていた。

「お前はいつも空を見ているな」
「気付くと見上げているんです。
そんなに好きじゃないはずなのに…」
「嫌いになったのか?
俺は好きだから見てるんだと思ったんだが」
「好きじゃないです…。
けど、夜は長くて…星空でも見ていないと気が紛れないと言いますか…今は多分…何かがわかるんじゃないかと…そんな気がして…見上げずにいられない…」
「何か…」

星空の中に探している”答え”。
それが何なのかをずっと分からずにいる。
聞こえていなかったはずはないあの人の最後の言葉。
最期の瞬間に聞いたはずの言葉。
そして、思い出す事のできない誰かの影。
幾千、幾万、幾億の夜空を見上げても思い出す事ができない。

「ラダももう、寝てください。
明日からまた忙しくなりますから」
「ああ…。
お前も…いつまでも外にいるんじゃないぞ」

ふっと背中が暖かくなる。
ラダが自分の外套を脱いで肩にかけてくれたと気づく。

「ありがとうございます」

背中で扉の閉まる音を聞きながら、飽く事なく空を見上げる。
今にも降ってきそうなくらい瞬く星達。
リュスナとして生きていた時も、こうして部屋の窓から見ていたのを思い出す。
小さな空だったけれど、瞬く星の美しさは今と変わらない。
星と月の光を頼りに窓辺で本を読んでいた。
眠る事のできない体。
気づいた時にはそうだった。
皆が寝静まった城の中、世界から孤立したような感覚で満たされる時間。
静寂に満ちた世界。

『こわくないのですか…ねぇさま…。
ぼく、いっしょにおきていましょうか』

夜が怖いと言ったマルスに、眠らない事を話した時だった。
ぎゅっと裾を掴んで言われた言葉。

『恐ろしくならないか?』

バルトに話して夜の見張りを代わった時に言われた言葉だ。

静だなと思う事はあった。
月のない夜は明かりのない中でただひたすら目を閉じて朝を待った。
あの頃は、寂しいとか、怖いと言う感情が分からなかったのだと思う。
だけど今なら分かる。

寂しかった。

たった一人、世界から切り離されてしまったような時間。
星空を見ていたのは、沢山の光がその寂しさをまぎらわせてくれるような気がしたからだ。
一人じゃないと思わせてくれるようだったからだ。

「寂しい…けど、なぜかな…なぜか寂しくない気がするんだ…」

それはきっと、大切な人達がいる世界だと知ったからだ。
想いがいつでも向けられている事を知ったからだ。

「大丈夫…寂しくないよ…」

呟いた言葉は静に空へと吸い込まれていった。


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