蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
第三章〜王都への旅〜

王都に向けて

‡〜怒りに似て〜‡

「あっ、忘れていました」
「どうしたの〜?」
「え〜ぇっと…手前の森で、”化け犬”と約束がありました」
「ん〜ん?
そこの森の?」
「はい。
この帰りにまた会わなくてはいけません。
私をどうするか決めてるはずなので」
「?リュスナを?どうするの?」
「どうしたいでしょう?
やっぱり敵討ちが筋でしょうか?」
「あ〜あ〜ぁ◎
昔、”化け犬”退治したわね〜◎
あら?
もしかしてあの子、生き残った子だったの?」
「はい。
でも困りました…親、兄弟の敵ですし、人情的には、ここで討たれてあげたいのですが…私にはまだやり残した事が沢山ありますし…」
「…お前…本気で言ってんのか…っ?」
「ええ。
私としては、腕輪の事もマルスの事も解決してから彼と決着をつけたいと…?」
「っ……っ…」

俺は間違っているのだろうか。
確かにリュスナの命はリュスナのもので、守りたいと思う事も、何かを背負わせたり、死なせたくないと思う事はこちらの勝手なものではある。
だがしかし、である。
こちらにも譲れないものがある。

「…っお前に自分で気付けと言った俺がバカだった…っ」
「?何でしょうか、ラダ?」
「も〜ね〜ぇ、本当にリュスナったら☆」
「???二人共…何だか殺気…っいえ…機嫌が悪いですか…?」
「そうだな」
「そぉね〜ぇ★」
「…っ…???っ」
「珍しく意見が合いそうだな、ババァ」
「そうね〜、この場は仕方がないわね〜ぇ、クソガキ」
「っ………ッッ」

急激に白く、青くなっていくリュスナの顔を見ながら、久しぶりに頭にくるのを感じていた。
どれだけこちらが想っても、想っただけでは絶対にこいつには届かないと、嫌になる程知っている。
俺も、ナーリスも、それこそ骨の髄までそれは身に染みて分かっている事だ。

「ッお前は自分の命を何だと思ってるッッ」
「リュスナ、遺される者達の想いを分かっていて?」
「どれだけの者達の想いで、お前を異界に送ったか考えた事があるかッッ」
「沢山の者の心を、あなたは引き裂いたのよっ。
この期に及んで、また同じ事を繰り返すつもり?」
「俺らがどんな思いで、お前の死を受け入れたと思ってんだッッ。
二度とゴメンだッ!」

リュスナの選んだ道は正しい。
だが、受け入れられないのも事実だ。
俺らがこうして怒りをぶつけても、ほんの一握り程も伝わらないだろう。
昔から変わらない。
あの頃もゆっくりと、長い時間をかけて教えていくつもりだったのだ。
あれほど早く死なせるつもりはなかった。

「…頼むから、もう勝手にいなくなるなッッ…」
「っ…!っ…」

それは、リュスナが死んでからこれまでの時間の虚しさを凝縮した、心からの願いだった。


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