僕の女神、君の枷~幸せって何だろう?
父が春になっても戻ってこない。
そんな危機的な状況を、母はそれ程騒ぎたてることはなかった。
周りに、よくあることだ、と一蹴されてしまったのだ。
父は酒も飲まない、女遊びをするわけでもない、本当に無口で穏やかな男だったのに。
「そういう奴が一番あぶないんだよ、女にのめりこむとさ……」
知ったような口ぶりで周りに囁かれ、母は東京に夫を探しに行く気力を失った。
実際のところ、父が戻って家に入れる筈の金がないということで、残された僕たちは、その日から食うにも困る生活を強いられることになったわけで。
夫を東京まで探しに行く心の余裕も、経済的余裕も母にある筈がなかったのだ。
僕にしたって、そんな大人の事情を理解できる筈もなく。
ただ、母と二人の生活を必死に繋ぎとめようと、僕なりに気をもんでいたことだけは確かで。