君色
前の会社を辞めて1年も経つのに、まだ少しだけ男性の近くに寄るの怖かった。

でも、ここに来てからその話はまだ誰にも話していない。

誰かに言ってどうにかなるものじゃないし、今はもうあの人はここにいないんだもの。

私は大きく息を吸うと、ゆっくりと息を吐き出して心を落ち着かせた。

「有沢さん?疲れましたか?お茶でも入れましょうか?」

息を吐く音が岡田さんにまで聞こえてしまったらしく、岡田さんが心配そうな顔で私を見た。

「あ、いえ。大丈夫です」

「そうですか?顔色悪いみたいですけど・・・」

そう言いながら岡田さんの手がこちらに伸びてくる。

私は反射的に椅子から飛び上がった。

「あ、あの・・・お手洗い、行って来ます」

椅子から飛び上がった音でアシスタントたちの注目を浴びてしまった私は慌てて洗面所に逃げ込んだ。
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