漆黒の黒般若
数日すると楠葉の熱も下がり斎藤も普段通りの隊務にふっきしていた


しかも楠葉が寝込んでいる間に総司までもが隊務に復帰したことで病み上がりの楠葉を驚かせた



現代で言うと8月ということもあり熱の下がった筈の楠葉の額にはうっすらと汗が浮かぶ


「暑い…」



畳に転がるも冷たいのは一瞬で、すぐに楠葉の体温をすいとり温かくなってしまう



このままあたしは干からびて死んでしまうのではないかと本気でかんがえてしまうほどだ


ふと太陽の照りつける庭を見れば桶がまだ置いてあった



「あっ、水浴びでもしよーっと!」



不意に浮かんだ名案に楠葉は飛び起きる


思い立ったらすぐ行動


暑い日射しにも構わず汗だくになって桶に水を入れる


だが、井戸の桶が小さいためなかなか水が溜まっていかない


ひもを引き上げるのに無駄に体力を奪われていく楠葉はぜいぜい言いながら必死でひもを引く




しかし強い日射しに一瞬立ちくらみが楠葉を襲う



「うわっ!ひゃっ」


よろけた楠葉はその拍子に力を緩めてしまった


ガラガラガラッ


音をたてて落下していく桶を引っ張り直そうとするが一気に急降下する縄との摩擦で手が出せない状態だ


思いきって縄を握ろうとした楠葉は案の定、手に激痛が走りのけぞった


だが後ろに出した足は何かにつまづき楠葉の身体はそのまま後ろに倒れていく


もうダメだっ


そう思い、目をつぶって痛みに備える


しかし衝撃は思ったより軽く、しかも痛くない


あれ?おかしい…


そう思って目を開くと誰かがあたしを抱きかかえてくれていた


顔が逆光で影になって見えないがひとまずあたしは身体を起こす



「君、大丈夫?」


どうやら心配してくれているみたいだ
あたしは立ち上がると砂を払いながらお礼を言う


「ごめんなさい、それとありがとうござ…い……」


そして顔を見上げた瞬間その言葉は途中で終わってしまった



「裕…」




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