漆黒の黒般若
熱も出始め、赤い顔をしながら苦しそうにする楠葉を斎藤が数日看病してくれた


「疲れが出たんだろう、本当に世話のやける小姓だ」


そういってしかめっ面をしてみるも楠葉が苦しそうに呼吸をすれば自然と心配そうな顔になる



汗の浮かぶ額に代えた手拭いをのせ直すと冷たくて気持ちがよかったのか楠葉は少しだが微笑んだ



「まったく…、早く元気になるんだぞ」


頭を撫でながら
言い聞かせるように言うとまた文机で仕事を始めた


ここのところ京はことごとく平和で副長が特別に坂下についていることを許可してくれたため部屋でも行える仕事をもらってきた



最近池田屋のことなどもあり疲れたのだろう…



振り向けば楠葉はすやすやと落ち着いて寝ている


親のこと、幼なじみのこと

そしてしまいには吉田に襲われたこと



この少女は一体いつになったら普通の娘になれるのだろうか…



一度空いてしまった穴はなかなか塞がることはない


それは俺もよくわかっている


しかしそれは時が経つにつれ埋まっていくこともあれば死ぬまで癒えない場合もある


人それぞれだが俺はまだ若く素直な楠葉にその重荷を背負ってこの先生きていって欲しくなかった



ただその思いだけが昔からあまり人と関わりを持たなかった斎藤を変えていた



この少女にとっての幸せとはなんなのだろうか…?


俺は筆を置くとあまり考えたことのない人の気持ちとやらを真剣に考えた



< 267 / 393 >

この作品をシェア

pagetop