漆黒の黒般若
「に、しても暑いですね」


さんさんと地上を照らし続ける太陽にセミの声がまた暑さを増幅させていた




沖田さんのうっすらと額に浮かぶ汗を拭いてあげる



「ねぇ、楠葉ちゃん。ケホッまた、前みたいに何かゲホッ、ケホッ話してよ…」


喋らないでくださいって言ったのに


少し怒りながらも楠葉はここに来る前の事を思い出す


「えっと…、あたしが住んでいた家では毎年夏になると河に遊びに行くんです


車っていう乗り物があって、それにお父さんとお母さんとあたしと裕で

まあ、裕は家族じゃないんだけどあたしと裕は兄妹みたいなものだったから



それで、河につくとみんなで河に入ったり、河原でごはん作ったりして遊ぶの」



「楽しかった…?」



「えっ…?はい」



「ケホッ、今はどう?」



「今も楽しいですよ、とっても…。この時代にもあたしの居場所が出来たんですから」



「僕も、ゲホッケホッ…、楠葉ちゃんが来てくれて、楽しいゲホッ、ケホッゲホッ」



途中まで話したところで沖田さんを激しい発作が襲う


「ケホッゲホッゲホッ、ぐっ…がはっ」



激しく咳き込んだ沖田さんを見てあたしは絶句した


畳の色は薄緑色から赤に染まる


そう、彼は血をはいたのだった



「沖田さんっ!」



沖田さんに駆け寄るが彼は目を閉じたまま苦しそうに荒い呼吸を繰り返している


「誰かっ、誰か来てくださいっ!沖田さんが!」


「なんだっ!総司がどうした?!」



あたしの声に気づいた平助くんと土方さんが部屋に駆けつけてくれた



しかし部屋に入った2人も畳に広がった大量の血とぐったりとする総司を見て絶句する



「沖田さんっ、沖田さんっ!」



「おい、平助医者だ!すぐに、医者を呼んでこい!!」



「沖田さんっ!」



部屋には泣きそうな声で総司の名を呼ぶ楠葉の声が響き渡る


「おい、楠葉しっかりしろ!総司は大丈夫だ、そう簡単には死なねぇよ」


土方は総司を抱きながら泣く楠葉の両肩に手を置くと落ち着くように促す


しかしそんな土方の顔もひきつっていた



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