星の見えない夜
彼女は赤い唇の端を満足気にひいた。

白い手をまっすぐ頭上へのばして、彼女は天を指差す。


「空を見てみて。

何が見える?」


つられるように視線を上げた。

暗黒に目をこらす。


先の見通せぬ闇の奥。

わずかに光るものが1つ、2つ。


「オリオン座」


3つ。

連なる星が目に入った。

その両脇に、鼓型にならぶ4つの星が輝いている。


見上げた黒い空間の中心に、視界の端に、

少しずつ、白い光が満ちていく。


俺は輝く夜の天蓋へ手をかざした。


「それから、冬の大三角」


かざした手指の間から、光芒がもれてくる。


それから、と俺は冬の大三角の中心へ手を伸ばした。


星座のあいだで、小さく大きく光る星々。

探せば探すほど、星の数は増えていった。


俺の知る星座よりもずっと多くの星が見える。


たいして澄んでもいない空で、これだけ多くの星を見たのはいつぶりだろう。


「目がなれてきたんだね」


心なしか、彼女の声ははずんでいた。



< 8 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop