春の頃に思いだして。

『この木の下に眠る、あたしのご主人。助けて、助けて……かえして、かえして』


獣と人形の声がステレオで聞こえた。


「ふん、多重音声は、悪くない。ぱずるを解くのは、楽しいぞ」


獣は、自分の前脚の上に、首を乗せる。まるで、人形を守るように、抱え込んで。魑魅魍魎の

魎狐(りようこ)がぞろり、と風に髪をなびかせる。


『助けて……タスケテ……』

「なるほど。木の下ね。それは難儀。なにしろ、ここの木は大きくて、おまけに霊力を帯びていて、まるでご神木のようだからねえ」


桜の淡い色が重なった、濃い並木道と、それに連なる長い道。丘を見やれば病院が建つ。花は見事に咲き乱れ、さやさやとますます豪気に散ってゆく。


「そうか、この下を掘ればいいんだ?」

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