春の頃に思いだして。
「どうしたの、化け物よ」
『別にどうも』
「安生しないのか。君はあの人型を守っていたのでしょう。それがなくなったいま、ここにとどまる理由はないはずよ」
『くだらぬことを……』
彼女はちょっと、首を傾げ、背中でまとめただけの髪を払って、襟足をなでた。
「そうか。今まで奴の側にいてやったのだな? 見れば、昔の大陸飾りを、つけている。どこから来た」
『戦場だ』
彼女は、彼が自分と故郷を同じくすると言ったわけが、わかった気がした。
「日本人形の小童には、縁もゆかりもなさそうなものを。なぜ……」
『俺は、自分だけが生き残る苦しみを、きっと、忘れさせてやりたかったのだ。共に俺がここにいると、奴に教えてやりたかったのだ』
女は眉ひとつ動かさずに、平然としていた。
『いわずもがなだ、戦場の、生ける最高の殺戮兵器よ』
「それは違う。それは……わたしではない」
『ならば、その血に飢えた瞳はなんだ。化け物か』
「ああ、そうだよ。だが、ころしたのは主のためだからだ」
『俺もそうだ……もう、昔の事だがな』
「ずいぶん長い、独りごとだったな」
彼女は大きくあくびした。涙を隠すためだった。
「でも、奴だけではない。君も奴を必要としてたはずだ」
『そうかな。自分ではわからん』
「きっとそうさ」