春の頃に思いだして。
穴のあいた化け物の目に、紅い灯がともり、ジジッと瞬いた。ふうーっと、大きなため息のような轟音がし、彼は再び前駆を折った。


「どうしたん? 化け物」

『俺は木天蓼(もくてんりよう)……だ』

「だから言ったではないの。またたびをやる、と」


 女の耳に熱い吐息がふりかかった。


『ああ、そうだな。やはり、昔話にでも付き合ってもらおうか』


ふふ、と女は命の危険を感じることもなく、口の端で笑った。


「だから、つまらんと言ったのよ」

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