アタシの人生に華が咲く
そう言ってリョータはまた、のそのそ歩いて行ってしまった。
この近所に同世代は多いけれど、ほとんどが県外に出てしまって残っているのはほんの数人。
リョータや私のように家のあとを継いだり、地元で就職したりする人だ。
リョータとは一番気の合う仲間であり、私のことはほとんど知っていたりする。
もちろん恋愛感情なんてものはない。だからなんでも素でいられて楽なのだ。
―――鯛焼きが丁度焼けた頃、ウチの斜め向かいにあるお茶屋さん“浅川園”のマチコさんが、おぼんに煎茶をいれた湯のみを二つ乗せて店にやってきた。
『小巻ちゃん、あんこ二つね』
マチコさんは、うちの店先にあるベンチに腰を下ろし、鯛焼きを待つ。
『はい、あんこ二つ』
マチコさんは鯛焼きを二つ受けとると、うち一つを“どーぞ”と私にくれた。
そしてそれを二人で食べながらお茶をすすり世間話をはじめたりする。
マチコさんは、ほぼ毎日そうやってウチへやって来る常連さんの一人だ。
浅川園は代々続く老舗で、お店も、その奥にある庭園付き家屋も立派なもの。
ちなみにマチコさんは若いころ、近所でも有名な美人でモテモテだったと、浅川家に婿養子にきたマチコさんの旦那さんから聞いた。