愛を待つ桜
寝室にはクイーンサイズのベッドが置いてあった。聡が子供のころから使っていたベッドだという。
室内の調度品はすべてイタリア製の高級品。広く豪奢な室内には、巨大なベッドもしっくりと納まっていた。


その右端に悠は小さな寝息を立て眠っている。
真ん中では母親の手が握れず寂しがったためだ。
ひとり寝にはだいぶ慣れたが、ここまで広いと不安になるのだろう。しきりに、夏海の子守唄を聞きたがった。

悠の寝顔を見ていると涙が溢れてくる。

この幼い聡を思わせる優しい笑顔に、何度救われただろう。
どうしてここまで頑なで、愛してくれない男性を愛してしまったのか。
そのせいで、悠には辛い思いばかりさせてしまった。

せめて離れるときはDNA鑑定を受けて行こうと心に決める。
そうすれば、少なくとも聡の悠に対するわだかまりは消えるはずだ。我が子として最大限の愛情を惜しみなく与えてくれるだろう。

そっと額の髪をどけてやり、布団を直した。


(2度と……会えないかも知れないのね)


切ない想いを込め、小さな手を掴んで唇に寄せた。

夏海は堪えきれず布団ごと我が子を抱き締める。


「ごめんなさい、ママを許してね」


掠れる声で呟いた。


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