愛を待つ桜
「いい加減にしてくれっ! 今は……由美がそれどころじゃないんだ! 何だよ、みんなしてなんなんだ? どうして夏海さんなんだよ。由美まであんな……訳わかんないよ」


怒りに燃えた聡とは逆に、匡は半泣きだ。


次兄の稔が間に入り、聡の手が離れた瞬間、匡はリノリウムの床にフラフラと座り込んだ。

それもそのはず、匡の中では彼の嘘は夏海から聡に伝わり、謝罪は済んでいるはずだった。なのになぜ、聡が何度も繰り返すのかサッパリ判らない。


「くっ!」


聡は行き場のない怒りをゴミ箱にぶつける。

派手な音を立て、空のゴミ箱は病院の廊下を転がった。
その音を聞きつけ廊下の角から姿を現した女性の看護師は、「静かにしてください!」聡らを睨みつけ厳しく注意した。


「ど、どうも、すみません」


ひとり冷静な稔が、ゴロゴロと転がるゴミ箱を押さえながら、兄の代わりに謝罪する。

深夜の病院だ。これ以上怒鳴るべきではない。聡にもそのことは、嫌というほど判っている。
だが、とてもこの程度で済ませられるはずがなかった。


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