キャンバス

好きな人が出来たんだと、彼に告げられたのが1月の雪が降った夜だった。

珍しく、いつもの待ち合わせ場所でもなく落ち着いた雰囲気のカフェでの待ち合わせで、珍しいモノでもあるのだなと思いながら、久々に彼からのメールで、残業もせずに彼に会えると気分は今日のランチは幸せだったのに…

「どういうこと?」

やっと、私が発した言葉はとても頼りなく、空中で消えてなくなってしまうぐらいの不協和音の音色だった・・

「好きな人が出来たんだ」

そうつぶやいて、彼はいつものタバコに火をつけて煙を空中に吐き出した。

「蒼は仕事が好きで、自分をしっかりと持っている。俺は、そんなお前をみると自分も頑張らないといけないといつも思っていた」

「ただ、会えない時が多すぎて、でもお前はいつも仕事を頑張っていた。メールをしても、返ってこない時もある。俺は、なんのためにいるのか考えることが多くなった」

「確かに、仕事が好きで、あなたに連絡をし忘れているのは分かっていたわ、でも…」

「分かっている、俺の身勝手だってことも。蒼を応援していると言ったが、本音では寂しかったことも、黙っていた。そんなとき、一緒に仕事している子に心が揺れていることに気づいた」

ギュッと、タバコの火を灰皿に彼が押しつぶして、まっすぐにこちらをみた。

「ほんとに身勝手なことだと分かっている、だがこのままだとお互いに嫌いで別れてしまいそうで。許して欲しい…」

そう言って、うつむいてしまった彼の頭をじっと見つめながらやっと発した言葉に、帰ってくる言葉はなかった…




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