ランデヴー
その感触は柔らかく、そして優しかった。


ひんやりとした唇は何故かとても心地良く、考えることを放棄してしまいたい衝動に駆られる。



私の空白の頭は、その瞬間何も考えることができないでいた。


人ってあまりにも理解できない出来事が起こると頭の処理がついていけないんだ……なんて漠然と感じる。



1度静かに離れた唇が僅かな余韻を残し、再び重ねられようとしたその隙に、私はハッと自分を取り戻した。



「ちょっ、やめてよ!」


ようやく動き出した頭をフル回転させて全身に指令を出し、空いている手で倉橋君の体を押し戻した。


そしてあまりにも近い距離にある整った顔から、必死で顔を背ける。



だがそんな抵抗も虚しく力を込めたその腕さえも彼に掴まれ、気付くと軽い衝撃と共に私は床に押し倒されていた。


やばい、本当にやばい。
本能がそう私に告げるものの、気が動転し過ぎているこの頭の中には、何の対処法も浮かばない。



「ちょっと、ここ会社っ……」


そう言いかけた私の唇を、再び彼の唇が塞ぐ。
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